健康ワンポイントアドバイス05「「胃瘻」栄養補給経路 」 - 公立長生病院

「胃瘻」栄養補給経路

公立長生病院 診療部長 阿部恭久

 今回は「胃瘻」についてお話しします。けがや病気のため、口から食べられなくなった場合を想像してみてください。水分も栄養も体に入れることができなくなり、大変なことになってしまいます。こういったことへの対処法として「点滴」があります。
 短期間で栄養摂取が回復してくる場合は、腕などから投与する「末梢静脈栄養」で主に水分の補給をします。十分な栄養摂取が可能となるまでに長期間を必要とする場合は、鎖骨の下など太い血管に入れる「中心静脈栄養」で栄養を入れていくこととなります。これらの方法は病院では日常の光景です。
 しかし、体にとって、「点滴だけの栄養法」ということは非常に不自然な状態です。わたしたちは口から食事を摂り、腸で栄養分を吸収し、これをエネルギーにし、活動しているのです。しかも、腸はわたしたちの免疫システムの重要な役を担っているのです(体の免疫細胞の2/3が腸に集まっています)。従って、腸が使えるならこれを使うことが生理的であり、免疫システムの維持という点でも有利なわけです。
 そこでまず行われる方法が、鼻から細いチューブを胃や腸へ入れ、ここから栄養を入れていくことです。ただしこの方法は、違和感が強く、鼻や咽頭部の痛みを引き起こしたり 潰瘍を作ったり、胃食道逆流や気管への流れ込みで肺炎を引き起こしたり、精神的不穏状態を招き、何度も自己抜去してしまうなど、多くのトラブルがあるため、長期間行っていくには難しい場合が多くあります。
 そこで登場してくるのが「胃瘻」です。おなかから胃へ直接チューブを通し、ここから食事を入れていく方法です。言わば栄養を摂るためのもうひとつの口ということです。

◆どのような方が対象となるか?
口から食事摂取ができないが、腸に問題がない方です。
・脳梗塞、脳出血などの後遺症で自発的な摂取が十分できない
・認知症などで摂食意欲が障害されている、不安定である
・神経筋疾患などによる嚥下機能(飲み込むこと)の障害がある
・頭部、顔面外傷により食べられない
・食道、胃噴門部の病気により胃に食べ物が入らない
・誤嚥性肺疾患の予防と治療として
・経鼻胃管の長期留置が困難な場合などです。
もちろんそれぞれの方の状況によって適応を決めていくことになります。

◆どうやって作る?
胃瘻造設法として、
(1)おなかを開けて作る。
(2)内視鏡(胃カメラ)を利用して作る。の方法があります。
(1)はいわゆる開腹手術です。最近は(2)の方法で作るのが一般的です。そこで、この内視鏡を利用して作る方法について説明します。
 これは「PEG」と言います。経皮内視鏡的胃瘻造設術Percutaneous Endoscopic Gastrostomyの略語です。
 内視鏡を胃に入れて、胃を空気で膨らませ、胃壁と腹壁を密着させて、おなかの上を指先で押し、胃瘻を作る場所を決めます。ここへ針を刺し、チューブを留置するのです。
苦痛を和らげるため、内視鏡を入れる前に鎮静剤を投与します。また、針を刺す前に局所麻酔を行います。所要時間は数分です。
 ただし、全身状態のモニターが必要ですので、当院では手術室で行い、通常の手術と同じように対応し、PEG造設を行っています。
 もちろんすべての場合で、簡単に、問題なくできるわけではありません。考えておかなくてはいけない偶発症もあります。出血、腹膜炎、感染、胃以外の穿刺などです。

◆日常の管理法は?
 腹壁と胃壁がしっかり固定され、PEGが安定するには一般的には1ケ月とされています。清潔を保つことは重要ですが、消毒は必要ありません。入浴も可能です。石鹸で洗うこともできます。チューブは、留置したタイプによってちがいますが、ほぼ6か月に一度交換します。
 ところで、「胃瘻を作ったら食べられないのか?」そんなことはありません。胃瘻から必要な量の栄養分を入れ、エネルギーを確保したら、食べムラのある方は好きな時に好きなものを食べ、飲み込むのが困難な方は飲み込むリハビリをゆっくり、じっくり行っていけばよいのです。
 もともとの疾患によりますが、胃瘻から栄養が十分入ることで体力が回復し、それまでほとんど口から食べられなかった方が、急に食べ始め、ついには 胃瘻が必要なくなったということを時々経験します。必要がなくなったら、チューブを抜くと2-3日でふさがってしまいます。
 今回のこのお話を読んでいる方御本人が、胃瘻を作って欲しいと思うことはないと思います。ただ、身内の方で、在宅介護を考えていたり、介護施設への入所ということを考えていたりという場合、当てはまるかもしれません。
 決して、「胃に穴を開けてまで」、「そんなことまでして」と考えるのではなく、その方の持っている能力を引き出し、その方らしい生活を確保していくための手段と考え、利用していくのがよいと思います。