「キズ」の治療
公立長生病院 外科 阿部恭久
●今回は、「キズの治療」についてお話します。
どんな分野においても、長年習慣的に行われてきたことが、見直してみるとずいぶんと改められてしまうことがあります。キズの処置がそのひとつといえるかもしれません。
10年以上前までは、多くの外科医は毎日当然のように、手術を行った患者さんのキズにも、ケガをしたキズに対しても、イソジンなどの消毒液をぬり、ガーゼをあてていました。浸み出しがあるキズに対してもガーゼであて、乾かすようにしていました。治療を受ける多くの患者さんも、あたりまえの行為としてとらえてきたと思います。
ところが、キズが治っていくことへの研究が多く行われ、いろいろなことが解明されてくるに従い、今まで行われてきた習慣的な処置が考え直されてきました。では現在どう対処しているか、少し具体的に述べていきましょう。
(1)細菌や泥などの異物にあまり汚染されていない切りキズの場合・・・
キズの様子に応じて、縫合したりテープで固定したりしますが、その後48時間で「皮がつく」ことがわかってきました。従ってその後は水に濡れても問題はなく、消毒の必要もないということになります。もちろんしっかりした組織になるには1週間程度の時間は必要です。手術などできれいに処置されたキズ・縫合したキズもこれに当てはまりますので、術後2日経過したものに対しては、何も行っていません。
(2)擦過傷(すりきず)や、組織が挫滅・離断された挫創の場合・・・
まず、感染の原因となってしまう泥などの異物を洗い流します。止血が必要であれば行い、傷口を縫い合わせることができるようであればそのようにします。そうしてから、キズを創傷被覆剤で覆います。
当然ながら、キズからは浸み出し液が出てきますし、臭いがします。しかし、この浸み出し液は膿ではなく、キズを治していくための重要な物質が多く含まれているものなのです。以前はガーゼでこれらの浸み出し液を吸収させていましたが、もったいないことをしてきたわけです。
ただし気をつけなくてはいけないことは、最初に、感染を起こさないよう十分に汚いものを除いておくことです。異物があるままキズを覆ってしまうと逆に悪化してしまいますので、観察をしていくことは必要です。
(3)感染が避けられなかったキズの場合・・・
死んだ組織・壊死した組織を取り除いたり、水で洗ったりします。抗生物質が必要な場合もあります。少し時間はかかりますが、キズがきれいになった後に縫い合わせたり、テープなどで寄せたり、創傷被覆剤を用いたりして治していきます。
もちろん、キズと一口で言っても実に様々です。キズの原因となった出来事の程度や、キズの深さ・広さ・部位など、それぞれの状況によって対処がちがうのは当然ですが、『消毒が主ではなく、水で洗ってきれいにし、観察しながら、キズから出てくる液を利用するようにキズを被覆し、治ってくるのを待つ』ということが現在の基本的な考え方といえます。
この10数年、当院でもキズの処置は大きく変わってきました。患者さんが戸惑うこともあり、ついついイソジンを少しだけつけたり、保護目的でガーゼをあてたりしてしまうこともありますが、徐々に浸透しているように思います。
また創傷被覆剤は、薬局、コンビニなどでも売っており、ちょっとしたキズに対しては、十分に有効と思います。もちろんご心配な場合は受診をしてください。慣れないことをするのは少し不安があると思いますが、一度試してみてください。



