「坐骨神経痛について」-公立長生病院

坐骨神経痛について

公立長生病院 整形外科主任部長(診療情報部長)  小笠原 明

  1) 坐骨神経痛
 臀部から下肢後面にかけての痛みがあるとき、「坐骨神経痛ですね」と言われたことがある方もいるかと思います。私たちが外来で診療しているときにも、「坐骨神経痛と言われた」と受診する方もいます。
 受診した方が、「坐骨神経痛と言われた」と訴えた時に、私たち整形外科医はどんな病気を考えるでしょうか? 腰椎椎間板ヘルニア・腰部(ようぶ)脊柱管(せきちゅうかん)狭窄症(きょうさくしょう)・腰椎すべり症・腰椎分離症と言った腰椎疾患から、変形性(へんけいせい)股(こ)関節症(かんせつしょう)・梨状筋(りじょうきん)症候群(しょうこうぐん)・帯状疱疹(たいじょうほうしん)など様々な疾患が脳裏に浮かびます。そうした上で問診・身体所見・画像診断から坐骨神経痛の原因になっている病気を見つけて治療方針をたてて行きます。ここで気づかれた方もいらっしゃると思いますが、「坐骨神経痛」は症状の名前であって、病気の名前ではないということです。 当然ですが、病気によって治療法が違います。皆さんがもし「坐骨神経痛です」とだけ言われて治療しているなら、何の病気による坐骨神経痛か主治医に訊(き)いてみましょう。レントゲン写真には神経は写りません。MRIのような神経が写る画像を示しながら解説してもらえば、医療関係の知識が無くても、なぜ坐骨神経痛がでているのか十分に合点がいくと思います。

2) 腰部(ようぶ)脊柱管(せきちゅうかん)狭窄症(きょうさくしょう)と間欠(かんけつ)跛行(はこう)
高齢者に多い腰部脊柱管狭窄症を一つの例に考えてみましょう。症状は臀部(でんぶ)から下肢後面にかけての痛みとしびれの坐骨神経痛です。しかし、腰部脊柱管狭窄症から来る坐骨神経痛は、他の疾患から来る坐骨神経痛とは違う特徴があります。寝たり座ったりしているときには症状がないかごく軽度なのですが、起立したり歩いているとだんだん痛くなってきてそのまま歩き続けるのが困難になってきます。歩行が困難になってきた場合は座ってしまえば痛みが治まってきてまた歩けるようになります。このような症状を間欠跛行と言って、腰部脊柱管狭窄症に特徴的な症状です。
 腰部脊柱管狭窄症とは、どんな病気でしょう。腰椎(ようつい)(腰の骨)の中には、脊柱管という神経が通るトンネルがあります。高齢となるにつれて腰椎は変形して行きますが、その変形の具合によって脊柱管がつぶれて神経を圧迫する為に神経痛が出やすくなる病気です。 治療について考えてみましょう。原因に対する根本的な治療は脊柱管を広げて開放することですから、手術治療になります。対症療法(症状に対して行う治療)については、痛み止めや血流改善の飲み薬・神経根ブロック・硬膜外ブロックと言った薬物療法、暖めたり低周波をかけたり等の物理療法があります。症状が軽い場合は対症療法にて坐骨神経痛が治まる場合もありますが、病気の原因となっている脊柱管が広くなるわけではありません。よって、なかなか坐骨神経痛が取れない場合には、いたずらに対症療法を続けるより手術治療をした方がよいこともあります。この病気の方の多くは高齢者ですから、手術治療をする場合は体力のあるうちにすることが望ましいことは言うまでもありません。手術は全身麻酔で行いますが、長生病院では常勤の麻酔科専門医によって行われています。麻酔の進歩により、高齢者の方でも昔と比べてずっと安全で、痛みが少なく手術が行われるようになってきました。80歳代の方でも手術を行っています。
 整形外科の治療は手術とともに術後のリハビリテーションが大切です。長生病院では、理学療法士9名、作業療法士3名、言語聴覚療法士1名と国家資格を持った専門スタッフによる急性期のリハビリテーションを行っています。

3) もう一つの間欠跛行
 腰部脊柱管狭窄症による坐骨神経痛(間欠跛行)についてお話ししてきました。しかしここで難しいのは、間欠跛行を呈する病気は腰部脊柱管狭窄症の他にもあると言うことです。間欠跛行は、骨盤内から両下肢に至る動脈が詰まって下肢の血流障害から起こることもあります。この病気を閉塞性(へいそくせい)動脈(どうみゃく)硬化症(こうかしょう)といいます。腰部脊柱管狭窄症と閉塞性動脈硬化症の両方を合併することは約30%あると言われています。血流障害の病気は、整形外科ではなく血管外科にて治療します。

 正しい診断があなたの坐骨神経痛を治すことにつながります。是非あなたの主治医に「私の坐骨神経痛は何の病気で起きているのですか?」と訊(き)いてみましょう。